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「文学」は大嫌い

 

 赤坂真理「東京プリズン」を読了した。さまざまなことを考えさせられた。いや正確に言えば一つのことだ。「文学」である。
 この作品そのものはすばらしい。赤坂氏の力量、何よりも「天皇の政治責任」を題材にした勇気に敬意を表したい(えらそうだが)。
 実際、主人公の少女が米国の学校でディベートでする演説は、共感で身が震える。「セント・オブ・ウーマン」のアル・パチーノの演説のように。
 米国の学生だか教師だかは「天皇とはフィクションではないか」という。それに対して少女は「キリスト教だってフィクションではないか」と反論する。
 結局少女は天皇とは「器である」とし、「神の名のもとに行われる戦争」の愚を糾弾する。作品中にはこうした思考を肉体化するシンボルとしてヘラジカが出てくる。これによってこの小説は神話の力を身につける。
 またベトナムの双生児が出てくる。米国の「愚行」であるベトナム戦争の象徴だ。さらに三島由紀夫「英霊の声」が通奏低音としてある。「などてすめらぎは……」だ。
 ここで思い出したのは70年安保で騒然としていた60年代末期、三島氏が対談で言った有名な言葉。「大学教授連中に言ってやった。(太平洋戦争の)本土決戦をやればよかったと。でもベトナムほどの粘りはなかっただろう」。

 さてここで問題にしたいのは、ほかならぬこの「東京プリズン」の宣伝文句だ。本の帯にも新聞の広告にも載っている。
 「この気宇壮大な力作に、私は感動した」(朝日新聞・松浦寿輝氏)、「これこそが文学の仕事だろう」(産経新聞・石原千秋氏)、「文学史上きわめて重要な問題作だ」(毎日新聞・田中和生氏)。
また朝日の書評では、いとうせいこう氏が鋭くこの作品の本質を突いていた。別にこれらの人の高評価が問題と言っているのではない。
 要するにこれが「文学」だということ。小説だから文学と言ってしまえばそれまでだが、果たしてそれでいいのだろうか。
 この小説が指摘したこと。それはとても重要な「事実」だ。戦後多くの日本人が忘れようとしたこと。「なかったこと」にしてきたこと。
 それは「事実」として指摘してほしい。何も小説の形にしなくてもいい。やはり何かがどこかが怖いからか。
 いやフィクションだからその大事なことを表現し得ているということは重々承知のうえで言ってるのだ。
 私が言いたいのは、これを優れた文学ということにしてしまって、そのためにこれまで長い間日本人が避けてきたように、これも日本の世の中や時代にのみ込まれ風化してしまわないかということだ。

 現実の社会というのは恐ろしい。ロシア革命が起こった当日もモスクワ市民は仕事場に普通に通って普通に暮らしていたそうだ。
 シュールレアリスト(ブルトンだったか)が嘆くのは、自動書記という手法が生まれたあとでも、普通に過去形で物事の推移を述べていく小説が書かれていることだった。
 何事もなかったように。ほかにもいっぱいあるだろう。何事もなかったように。
 社会の「忘れる力」のすごさを甘くみてはいけないと思う。

 出版社は小説を売る立場だから、仕方ないかもしれないが、この「東京プリズン」を文学で片付けていいのかということである。
 じゃあ「文学」って何なのか。そんな、物事をオブラートに包み社会のかさぶたのようにやがて普通の皮膚に戻す役割なら、「文学」っていやらしいし要らない。
 YESの「海洋地形学の物語」第二楽章にこんな歌詞がある。「Relayer all the dying cry before you」。赤坂氏がいう「peaple」である。

 「文学」って嫌いだ。本は好き。いい小説、いい文章、いい言葉は好き。「文学」は嫌い。で、ポール・オースターの「ブルックリン・フォリーズ」の紹介なんか見ると、読みたくてたまらなくなる。これっておかしい?

 結論を言う。赤坂氏自身も「それらに迫るには、<小説>しかありえなかった」と言っているが、それでいいのかということだ。

 それともここに日本の本質があるのだろうか。
 


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  • 2017.10.19 Thursday
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  • 11:28
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コメント
はじめまして。
私は文芸時評において、『東京プリズン』を「天皇の政治責任」論としては読んでいまません。そういう読み方はつまらないとまで言っています。ネットですぐ確認できる全文を確認しないで、他のお二方と同列に論じてほしくないと思っています。
  • 千秋楽
  • 2012/07/30 2:50 AM
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