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言葉がつくる視覚

雪紅橋

 

 「諸君」という雑誌の1989年1月号にクロード・レヴィ=ストロース氏と江藤淳氏の対談が載っている。タイトルは「神話と歴史のあいだ」。その中で、視覚芸術と文学における日本と西洋の違いについて語っているところが興味深かった。

 

 江藤氏は芸術空間の遠近法と非遠近法、左右対称と非左右対称についてなどパリで講演して、その内容はレヴィ=ストロース氏も把握していた。浮世絵など非遠近法、非左右対称が日本だ。

 

 浮世絵が西洋のゴッホや印象派の画家に影響を与えたことは知られているが、レヴィ=ストロース氏は「誤解がある」という。

 

 ----印象派の画家たちをまずとらえたのは日本画のエキゾチックな部分でした。都会的な場面の構図と軽やかな色彩、光線の用い方、というような要素に興味を示したのです。ところがそのために素描の絵画に対する優位という根本的な事実がまったく見逃されてしまいました。----

 

 そして普通いわれる時期より早く、フランスの画家アングルは1820年代には日本の絵画を知り、「デッサンこそ一番大切で、彩色は二の次」と考えていたという。また日本の画家にとって絵を描くという行為は何日も何カ月も何年もの「何を描くべきかという深い思索のあとに来るもの」といい、印象派の画家たちは「日本の画家はすばやく自然に描く」と誤解していたという。

 

 その前段でレヴィ=ストロース氏は文学において、ヨーロッパ言語と日本語の決定的な異質さがあり、翻訳の難しさについて指摘していた。

 

 ----私の考えでは、日本語の構造に関する西欧人の誤解と、日本絵画の真に目指しているものについての西欧人の誤解は、ともに同じ誤解なのです。----

 

 続く二人の会話----

 

 レヴィ=ストロース 私は、日本の画家たちは大変に理知的だと思います。

 

 江藤 おっしゃる通りです。非常に理知的な一面があります。しかしその反面、一見まことに飾り気がなく、のびのびとしているかのように見えもします。

 

 レヴィ=ストロース ああ、だからこそ印象派の画家たちは思い違いをしたのですよ。外見は実体とは違いますからね。----

 

 この後、江藤氏はその十数年前、英国のパブで英国の文化人類学者と交わした会話を披露する。当時江藤氏が考えていた問題は、視覚芸術と文学との相互交渉の問題、東西文化の相互作用の問題だったという。

 

 ----私は、視覚芸術のほうが文学作品よりもずっとスムーズに異文化間に意思を通じあえるという仮説を提案しました。私は当時、このことはほとんど自明の理だと思っておりました。ところが、そのイギリス人学者から反対されてしまったのです。「とんでもない。視覚芸術だって文学作品と同じ程度に誤解されやすい」と。----

 

 江藤氏はレヴィ=ストロース氏の話を聞いて、その夜のことを思い出したという。

 さてそこで、この後江藤氏が話したことが、気になっているのだ。江藤氏は「視覚芸術にも、それ独自の言語がある」という。

 

 ----しかし、文学作品の場合は、何よりもまず第一に、言語によるコミュニケーションによって律せられています。……先生(レヴィ=ストロース氏)が著作の中で一貫して展開なさっている基本的論点の一つは、つまり人間による表現の言語的分野と、非言語的分野の間の基本的関係という点だと思います。しかし非言語的表現に直面した場合といえども、そこから感じ取ったことをあくまで言語的道具を通じて解釈しなければならない以上、やはり人間は言語によって律せられているということになるのだろうと思います。----

 

 う〜ん。江藤氏は非言語的表現の「解釈」について、やはり言語、ということを言ってるが、すでにある非言語的表現じゃなく、表現の進行形つまりつくってる最中もしくはその前段の認識ではどうなのか。

 

 ここで、想像した。普段何気なく見ている風景。それも言語が見方、見え方に影響しているのか。日本語が、あるいは地方の人なら方言が。視覚芸術というより視覚にすでに言語が入り込んでいるのか。恐らく入り込んでいるのだと思う。

 

 そして文学と視覚芸術の相互交渉の問題。突き詰めれば言葉と視覚の問題。ここに今一番興味があります。現代の文化の、何か秘密を解く鍵がありそうな気がします。今、空前絶後の大量写真消費社会を迎えているが、その意味あるいは無意味は何、何故なのか。インスタグラムとはよくいったもんだ。


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  • 2017.10.19 Thursday
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