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もぐらたたきの時代

樹雪

 

 1994年(平成6年)11月20 日に82歳で亡くなった福田恒存氏を追悼し、月刊「文藝春秋」95年新年特別号は福田氏の未公開の論考(講演録)を掲載している。講演は1970年5月に行われたものでタイトルは「塹壕の時代」。現代現在の状況にあまりに通じているので驚いた。「民主主義」とはそんなにいいものじゃないという言葉から氏の話が始まる。

 

 先の戦争は政府、軍部が押しつけ国民が犠牲になったという戦後の教育に福田氏は否を唱え、氏自らが戦時中一般国民から受けた圧力について語る。在郷軍人らによって訓練が行われ、町の人たちがいじめる。国民が戦争に熱狂していたというのだ。

 

 明治以来の、御上にすべてお任せの体質が戦争を招いたと氏は断言する。そして進駐軍を解放軍と呼び、マッカーサーにひれ伏す姿に氏は嫌悪を感じる。戦争も敗戦も占領も、強制的押しつけでなく、日本人が「民主的」に選び取ったものだとする。そして経済が成長してくると、日本はえらいんだとなることに強い疑問、反感を抱く。

 

 保守反動といわれた福田氏が、この頃(70年)になると「敵がいなくなった」という。学生運動も下火になった時代だ。「右も左も保守も革新もなるたけ目立たなくなって、ちょうど、塹壕時代に入ってしまった」という。

 

 ----困るというのは、問題の所在というものがなくなってきた。人間の考え方が明確でなくなってきた。個人個人の考え方が明確でなくなってきた。元来、私は日本人というものはそうであったと思いますが、この戦後のゴタゴタの二十年間がすぎて、ようやくそういうものがはっきりしてきた。そういう日本人の思考形態あるいは個人主義の未熟というものが明確になってきた。それが民主主義ということばによって実は補強され支えられている。

 

 ----主権在民といっても……代議員を選んでその代議員が議会で多数決で決めて政策を推進するので、自分にとって都合の悪いことも行われます。……民主主義は誰をも満足させない制度なのです。……ただ長い時間をかけてみた場合、個人の一生をとってみた場合に、不満と満足とが差し引きプラスマイナスゼロになるくらいに利害が配分されるのが一番望ましいのではないかというので、民主主義を採用しただけなのです。決してこれは理想的なことが行われる制度ではない。ところが戦後、民主主義が理想的のように錯覚を抱きましたけれども、今ではこの錯覚が破れつつあって、まあこんなもんだというふうにみんな思うようになってきたと思います。----

 

 最後のところはちょっと疑問。ま、何周か巡り巡ってかもしれないが、日本では今も民主主義を理想とする考え方がある。あっ、口だけで腹の中は違うのか。そういうことか。で、今の米国や世界の状況は確かに錯覚が破れつつある、その表れだ。

 

 この後福田氏は文化について言う。T・S・エリオットの「文化とは生き方」という言葉を紹介し、その程度に使うのが一番いいという。

 

 ----唐招提寺の建物だとか、宗達の絵だとか、そういうものが文化だと思っている人がいます。片や文化七輪とか文化クリーニング、文化住宅だとかのように便利なもの、西洋から来た便利なもの、あるいは西洋化した便利なもの、というように文化を考えている。つまり日本の過去の古典の中の、伝統の最高級の芸術作品か、あるいは近代化以降のハイカラなものを文化と名付けています。文化人などというのは後者の方ですね。

 本当の文化とはそのいずれでもない。生き方のスタイル、それが文化なのです。そういうものを戦後の日本は全く無視している。無視しただけならまだいいのですが、むしろ破壊したといっていいと思います。----

 

 最後に福田氏は「そういうものがなくなってきた上に個人がぐうたらになってきたということが重なってくると、日本民族というのは、国民としても民族としても滅びへの一途をたどるだけではないかというふうに思います」という。講演が行われた半年ぐらい後に、三島由紀夫氏は割腹し、介錯を受けて首をゴロンと床に落としたわけだが。

 

 これは新聞やテレビに多いのだが、古典的な文化財などには批判的な目は向けない。権威に盲従といっていい。ここにどこか胡散臭さを感じる。逃げというか。一方で欧米や世界の新しいもの、日本でも最新の風俗(変な意味でなく)は持ち上げる。軽薄なものであっても。それがわからないのは古い、ダサいというふうに。「洒落よ、洒落」の世界。それがイジメにも通じているのに。

 

 古典と最新の中間がない文化。日本だけではないと思うが、日本はその最先端を走っている。中間の文化、それは何か、どこにあるのか。福田氏、エリオット氏は「生き方」というが、どうなのか。

 

 あらためて考えると、保守反動といわれた福田氏の思想の何と革新的なことか。古い雑誌をとっておいてよかった。


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  • 2017.07.02 Sunday
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