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常套句の催眠術

 先日出張に使ったバッグをよく見たら、ホテルで無料で置いてある新聞があった。普段はなるべく新聞を見ないが、ただだったので、しかも日曜日で書評欄があったのでゆっくり読もうと持って来たのだった。

 

 面白い書評が重なる時は重なるもので、つまらない時はまったくつまらない書評ばっかりというのはこれまで体験していた。この日は前者。紅茶を飲みながら読んだ。

 

 ----フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ著「夢のウラド」

 フィオナ・マクラウドといえば、芥川龍之介最後の恋人として知られる松村みね子の名訳「かなしき女王」や、荒俣宏訳「ケルト民話集」など、英国幻想文学好きにはおなじみの作家といっていいかもしれない。

 マクラウド、本名はウィリアム・シャープ。男性作家シャープが、女性作家マクラウドを名乗って活躍していたわけである。この事実は死後に判明、本書解説によると女性と信じて手紙でプロポーズまでしていた男性陣があわてふためいたとか。----

 

 マクラウド名義の作品は「暗く悲しく美しいケルトの神話的世界を描いた」。本書後半のシャープの作品は「キリスト磔刑を目撃した放浪の民の現代までに至る呪いの年代記……ちょっとコミカルな恋愛小説もあり、仏植民地下アルジェリアの砂漠の反乱を背景とした仏軍兵士と現地人に育てられたスペイン人女性の運命を描いた戦争小説あり、ロンドンの闇社会に生きる女性とテムズ川水上警察官の悲恋と悲劇あり、いやはやなんともほんとに同一人物の作品なのとびっくり仰天に豪華絢爛」という。こういう一筋縄ではいかない作家、興味津々。

 

 ----古田徹也著「言葉の魂の哲学」

 導きの糸となるのはウィトゲンシュタイン、そしてカール・クラウスだ。……クラウスは作家として知られるが、十九世紀末から四十年弱にわたって個人誌「炬火」を執筆・出版。当時の新聞ジャーナリズムを批判し続けた。ナチス内部のヒトラー独裁体制が確立した千九百二十一年の誌面に、彼はこう書きつけている。「日常の交わりで使う決まり文句の鮮度を高めること、かつては意味をもっていたのに今では物言わなくなった言葉の身元確認、それらを人間に教えることは有益だろう。……根源に近づけば近づくほど、戦争から遠ざかるのだ」----

 ----しっくりくる言葉を探すとき、私たちは似た意味の言葉の間で迷う。この迷いは、単なる表現の厳密さの問題ではない。それは道徳的な行いだとクラウスは言う。迷う過程で言葉の多面的な意味に触れた人は、常套句の催眠術から目覚めることができるからである。----

 

 クラウスの対極にあるのが当時のドイツの新聞であり、当時も今も日本の新聞だ。つまり表面で言ってるのとは正反対に国、国民を戦争に近づけているのだ。言葉の鮮度、使い方によって。それがわからないか。気がついている人はいる。と思う。

 

 ----若林恵著「さよなら未来」

 「IT革命」が世界を変えたという。本当だろうか。伝達のデバイスが変わったのは事実だ。だが伝えられる中身に、何かしら革命的な変化は起こったのか。----

 

 ----リン・H・ニコラス著「ナチズムに囚われた子どもたち 上下」

 本書はナチスの登場から崩壊後の数年にいたるまで、ドイツ国内と、独ソによって侵攻・占領された中東欧地域での子どもたちの受難を描いた分厚い歴史書である。----

 ----とりわけ、1944年6月にギリシャのディストモで起こった、パルチザンの攻撃に対する親衛隊の報復の描写は印象的だ。三五〇人の死者のうち、半数以上が子どもだったと推定されており、子どもどころか胎児までもいたぶり殺す、凄惨を極めるものであった。また、ナチスの崩壊とともに集団自殺に巻き込まれた乳児や、ベルリン市街戦のとき、敵軍の戦車を爆破して捕虜になった八歳の子どもにも言及されている。

 だが、子どもは歴史にただ翻弄されるだけの客体ではなかった。抵抗組織に入り非合法のビラを普通の新聞に紛れ込ませて配ったり、パルチザンに参加し武器を握ったり、空襲の最中、瓦礫を掘り起こす作業を大人に任せられたり。戦争終了後に食料配給の手伝いを大人に任され、はりきってテキパキこなした子どもたちの姿が、本書のなかでほとんど唯一明るい場面である。----

 

 最後の方に「ほとんど唯一明るい場面である」とあるが、これのどこが明るいのか。


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  • 2018.08.18 Saturday
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