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テレビは言語的メディア

 古い新聞の切り抜きがあまり多くたまったので、スキャナーで次々に取り込んだ。ある切り抜きを見て「えっ!」と驚いた。書き手は蓮実重彦氏、1995年ある日の讀賣新聞文化欄。カットだか見出しが多くてわずらわしいが、「潮流20-21 世紀末から」の連載で、蓮実氏の「映画という体験」の<中>で、見出しは「突きつめた視覚的可能性」「大衆の関心を奪い去った テレビの本質は言語性」というものだ。

 

 最近テレビを見ていて、テレビも言葉だよな、とぼんやり思っていた。うるさいし、文法的な間違いも多いが、テレビは映像でというより結局は言葉なのだ。それをはっきり、しかも1995年に指摘していた。さすが蓮実先生。要約させていただきます。

 

 ----1950年代の米国で、テレビの普及がハリウッドの撮影所システムに壊滅的な影響を与えた。テレビという新たな視覚的メディアを受け入れた人々が、映画の観客であることをやめてしまった。日本にも10年遅れで波及した。だが日本で溝口健二や小津安二郎が晩年にも傑作を撮りえたのは、活動を保護する撮影所システムがかろうじて機能していたから。ジョン・フォードやアルフレッド・ヒッチコックら巨匠の活動もほぼ60年代に終わりを告げた。----

 

 ----テレビがなければ、撮影所などとうの昔に消滅していても不思議はないといった状況なのである。こうして、大衆娯楽の代名詞だった映画は気まぐれな大衆に裏切られ、産業としては存立の基盤を失う。にもかかわらず、映画が撮られ続けているのは、商品としての作品の質を管理しつつこれを生産し供給するシステムがテレビにほとんど存在しておらず、その限りにおいてソフトとしての映画を必要としているからにすぎない。----

 

 ----テレビ会社の映画製作への意欲は決して高くない。それには、出資者としてのリスクを負うよりも、出来上がった映画を買うほうが遥かに効率的だという理由がひとまず考えられる。だが、それにもまして、テレビが本質的に言語的なメディアとして成立しているという事情が存在している。CNNのニュースが典型的であるように、テレビにあってはレポーターのコメントが決定的であり、画面はその補足的なイラストにすぎない。

 ニュース番組におけるキャスターやスポーツ番組における解説者、あるいは芸能番組におけるレポーターの存在は、テレビという言語的なメディアにとっては必須のものだというべきだろう。テレビで人気者となるには、たて続けにしゃべりまくることで(何をいうかは、さして重要ではない)、カメラを独占しなければならない。----

 

 ----映画は、ほぼ40年におよぶ無声映画の歴史を通じて視覚的な表象の可能性と限界とをさぐりあて、映画独特の語りの技法の繊細化に成功した。例えば、二人の人物が言葉を交わすという光景を視覚的に表象するには、どんなアングルの撮影とどんなリズムの編集が有効であるか。そのことに充分自覚的だった1920年代の無声映画は、いわゆる切り返しショットを制度化することになったのである。

 二人の人物が向かい合って言葉を交わすことの多い小津安二郎のトーキーは、無声映画が確立したその技法を極端にまでおしすすめることで、独特の時間と空間を創造した。本質的にはその無声映画的な技法を無自覚に踏襲しているテレビのインタヴュー番組が、ほとんどの場合、小津より遥かに後退しているのは、テレビが言語的なメディアで、視覚的な表象はあくまで補足的なものにとどまっているからだろう。----

 

 近年はテレビ局が映画製作に出資し、テレビでの宣伝にも力を入れているが、映画とテレビそのものの撮影システムなどは別個のものだ。またテレビの製作者はそれはそれで工夫しているのだろう。だが以前にも書いたが、せっかくいいドラマやドキュメンタリー、面白いバラエティーをやっても、ニュースやニュースショー、ワイドショーは「言葉、言葉、言葉」だ。しかも中身のない、無教養な、浅はかな、知ったかぶりの、もっともらしい、偏狭な、視野の狭い、誤解錯覚の、勘違いの、時には人権を擁護するふりをしてある種の人々の人権を傷つけている、言葉、言葉、言葉。アナウンサーでもアクセント、切り方の間違った話し方。あるいは耳にタコができる「一体何が?」とか。逆にそういう常套句が、視聴者を離れさせていることに、気がつかないのか。


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  • 2019.01.18 Friday
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