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小説とは何か

 三島由紀夫「小説とは何か」で、「遠野物語」の「裾にて炭取にさはりしに、丸き炭取なればくるくるとまはりたり」の箇所について、こうある。

 ----その(幽霊の實在の証明)原因はあくまでも炭取の廻轉にある。炭取が「くるくる」と廻らなければ、こんなことにはならなかつたのだ。炭取はいはば現實の轉位の蝶番のようなもので、この蝶番がなければ、われわれはせいぜい「現實と超現實の併存状態」までしか到達することができない。それから先へもう一歩進むには(この一歩こそ本質的なものであるが)、どうしても炭取が廻らなければならないのである。しかもこの効果が、一にかかって「言葉」に在る、とは、愕くべきことである。舞臺の小道具の炭取では、たとへその仕掛がいかに巧妙に仕組まれようとも、この小説における炭取のやうな確乎たる日常性を持つことができない。短い抒述の裡にも浸透してゐる日常性が、このつまらない什器の廻轉を眞に意味あらしめ、しかも「遠野物語」においては、「言葉」以外のいかなる資料も使はれていないのだ。----

 実はこれは、倉橋由美子氏について論じた荒木亨氏の文章で引用されているもの。引用のあと荒木氏はこう書く。

 ----私が「小説」と呼ぶのはこのやうなものである。小説がもともと「まことらしさ」の要請に發したジャンルである以上、そこにはこのやうな、現實を震撼させることによつて幽霊(すなはち言葉)を現實化するところの根源的な力が備はつてゐなければならない。----

 さらにそのあとの箇所で、こう続ける。

 ----小説はブルジョワの娯楽といふ枠取りは、十九世紀から二十世紀になつても牢固として動くことがなく、発行部数の問題から小説が独立することはできない。詩はマラルメと共に決定的に多数の読者と訣別した。そのおかげで「詩人」を自称する大勢の妄想狂やナルシストを防ぐ手段も失はれたが、時間が経てばこれらの「その他大勢」は自然に消えてしまふから別に心配することは要らないのである。ところが小説は素人に訴へることがなくなると死んでしまふ。「確乎たる日常性」が失はれるからである。

 ----三島由紀夫は「小説とは何か」のなかで、小説を「仝生貮集修砲茲觝能完結性を持ち、△修虜酩米睇瑤里垢戮討了象はいかほどファクトと似てゐても、ファクトと異なる次元に属するものである」と定義してゐる。これは大事な點で、「まことらしさ」を願ふあまりに、言語の日常的使用の符牒性に頼つてしまふ作家がゐるが、畫家がコラージュの方法で實物を畫布に貼りつけるのとは異なり、日常言語の空しいインフレーションをそのまま模倣したからといつて、「確乎とした日常性」が姿を現はすわけではない。政治家のやり取りを聞いてゐると、「国民は許さない」と野党がいひ、「国民各位の圧倒的支援によつて」と政府側が答へ、「国民」といふ抽象名詞がそれぞれ恣意的なシニフィエを切り取つてゐるのが常態であるが、政治やマスコミやコマーシャルの言葉の使ひ方を文学が真似てゐるのではますます救ひやうがあるまい。三島のいふ「言語表現による最終完結性」は、バルトのいふ「よい表象」と異なるものではない。恣意的で、明らかな約束事によつてしか有効でなく、この約束事による実効価値に自然的喚起のいかがはしい力をつけ加えてごま化さうとしない、普通の言葉である。----


 耳が痛い人がいるはずなのだが、それは原理的にであって、現代において耳が痛いほどセンシティブな人間は(文学界、政界などに)もういないようだ。でも上記のことは真実なのである。その乖離の広がりが、昨今の目を覆う状況だ。「基本的」なことがわかっていない。

 政治で国会の質疑などでも、空疎な抽象的な言辞しか発せられず、「逃げ」と言われるが、実際「逃げ」でそうすることも多いが、そうでなくても日本語の場合限界があるのではないか。それは恐ろしいことではあるが。政治や経済やで使われる言葉のほとんどが明治以降翻訳されてできたもので、具体的に指し示し、議論を行えるほどの厳密性がない。議会制民主主義に不向きな言語なのだ。

 ま、それ以前に政治家の「しっかり「きっちり」「まさに」などの言辞は辟易だが。そう思っていないからそんな言葉を使うのだな、と思っている国民がいないとでも思っておるのか。その辺からして国民をなめてるな、と思う。

 「小説とは何か」の話だったが、日本では政治も一緒なのね。それも悲しい。つまり言葉、日本語の問題なのだ。


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